第1日目 3月28日(火)
自己紹介
夕食後、簡単な日程連絡のあと、自己紹介を順番にしてもらった。学校での部活、趣味、サイエンスキャンプへの意気込みなどを応えてもらいながら、それを受けて、聞いていた他の生徒が自己紹介した人へ何か質問する形式をとった。参加生徒の中に発言力のある生徒が男女ともいたため、活気があり、また和やかに自己紹介は進んでいった。質問が多く、予定の時間をオーバーしての22時30分頃まで交流が続いた。SSH認定校在籍生は男子1人だけ含まれていた。また、全員が初参加でやる気満々で明るく元気な生徒集団であった。
キーワードチェック
昨年のアドバイザーの先生からの報告を受けてキーワードチェックを行おうとしたが、自己紹介に大幅に時間を割いたことで時間がなかったことと、初参加の生徒達に先入観を与えてはいけないとも思い、これだけはというものを解説した。翌日から頻繁に出るであろうと思えた単位(μm、nm)とコロイド粒子の話だけをホワイトボードで軽くした。
第2日目 3月29日(水)
開講式
プログラム概要の説明と東レが展開している事業についてビデオ紹介があった。キャンプでの実習中の注意として「1.写真禁止 2.騒がない・走らない・安全第一 3.場内のルールに従う」ということを守るよう指示があった。ショールームで、家庭用濾過膜トレビーノをはじめとした東レ商品について多方面にわたって説明を受けた。生徒達は、商品名や社名が現れない部材に数多く東レ製品が使われていることや、繊維はもとよりタイヤや携帯電話などにも使われていることに素直に感動し、東レの存在が身近になったようだった。アドバイザーの私としても東レ=繊維会社のイメージが過去にあり、最近は事業展開の多方面性を知ってはいたが、実際にこんな商品にもあんな材料としてもと実物を目の当たりにし、よい勉強になった。
分離膜と水処理についての講義(地球環境研究所にて)
地球環境研究所で開発された分離膜について、当時の研究者の苦悩や開発努力と研究の歴史の重みをNHK「ETVスペシャル『地球の匠』」(2003年放映)のビデオ鑑賞で学んだ。「技術の限界までチャレンジした研究者」や「時代はようやく30年前の彼らに追いつこうとしている」ことを知り、デュポン社の中空糸に対抗して研究開発し誕生した平膜が、この研究所で誕生したんだという歴史的な重みを肌で感じた。次に、地球環境問題と水不足問題の指摘、水処理方法と分離膜の種類と構造についてパワーポイントで説明があった。水処理用の分離膜について種類と用途まで詳しい資料の解説であったが、スライドはわかりやすい図解であり、生徒達も概ねよく理解できる内容であったと思った。
質疑応答(昼食時)
弁当をいただくときに生徒と生徒の間に講師の先生に入っていただくような着席形態をとり、食べながら隣接する研究者の方に質問し、触れ合う談話会を持った。1対1で会話する者、両側から同じ研究者に対して会話(生徒2対研究者1)する者、いろいろと個人的話題で交流は進んだ。
分離膜の作製と透水性評価
分離膜となる高分子がとけ込んだ高分子溶液を基材となる不織布の上に垂らし、薄くキャストバーと言われる金属棒で0.3mmの厚さに引き延ばし、水洗して膜を凝固させて作製した。NHKのビデオに紹介されていた研究者が30年前に開発し、今なお新製品の開発時(生産ラインの機械にかける前)に行われている方法で作成した。一人あたり2〜3回体験することができ、作製した膜のうち満足いくものを性能評価用の膜として使用した。透水性評価は電卓による計算結果をめぐって生徒間で誰の膜が優れているのではなど話題に花が咲いた。生徒達はみなとても楽しそうに実習していた。
質疑応答(実習の終了後)
予定時間をオーバーしての質疑応答はたいへん活発であった。
ミーティング(ホテルの会議室)
キャンプの東レ側の窓口と総合調整役をしていただいている会場担当者もホテルの夕食をご一緒頂き、ミーティングにも参加頂いた。ミーティングのほとんどを会場担当者を囲んで質問する時間に割いた。ここでも生徒達は活発に質問して時間があっという間に過ぎた。また、翌日の実習で手間がかかるであろうと予想された安全ピペッターの使い方について、ストローと水を用いて、吸い上げる練習を全員にしてもらった。楽しく操作していた。
第3日目 3月30日(木)
分析会社の役割と分析方法の原理について講義(東レリサーチセンター(TRC)にて)
パワーポイントで分析委託業務、分析方法である紫外吸収法と分光学の原理等を解説を受けた。昨晩は最後の夜ということで遅くまで語り合っていた生徒にはむずかしい内容であった。大学内容がほとんどであったが、打ち合わせ段階から、高校生に十分によくわかる高校内容を解説していてはサイエンスキャンプの意義にも反するだろうということと、昔に比べて今の高校の教科書内容も大幅な削減により易しくなっていることも承知の上で、ちょっと背伸びしたことも触れるだけは触れてみてほしいという講師の熱い思いが伝わってきていたので、未消化などさほど気にすることもなかった。実習に必要な部分はしっかりと丁寧に教えていただき、それに続く実習も、生徒達も前向きに臨めた。
フミン溶液のろ液の紫外吸収スペクトルの測定と考察
指紋や汚れでスペクトルが大きく変わること、昨日の透水性の実験結果では差があるように思えていた友人の膜も、スペクトルはほとんど変わりがないことに驚きを見せていた。時々刻々とスペクトルのグラフがノートパソコンのモニターに出てくるので、先に実験の終わった友人のグラフと比べて自分のグラフがどうなるか、ドキドキしながら見守っていた。とてもほほえましい生徒達の光景であった。安全ピペッターも昨晩の練習の甲斐あって皆なんとかうまく操作していたように思える。200nmあたりにピークが出るのはなぜかを考えることを通して、「機械が出したデータをどう読むかは人間の作業」であることを学んだ。講師は「その読み方は直感からくるものであるが、その直感はその人の経験に基づくもの」であると指摘し、皆、深く納得した。
SEM(走査型電子顕微鏡)での膜の観察
SEMの前で最初に原理と操作法の解説を受けた。また、観察試料に電気伝導性を持たせるために、白金の薄膜を真空蒸着させる装置も実物を見ながら解説を受けた。両者とも実物を前にしての解説でたいへん理解しやすいものであった。見本として地球環境研究所から持ち込まれた昨日作製した膜を、SEMを生徒達は順番に各自操作しながら、観察面(表や断面や位置)を変え、各自違った観察面の顕微鏡写真を1枚撮影した。自分で操作した1枚として、写真はとても記念に残る体験の証、またお土産として、生徒達はみなうれしそうであった。
地球に優しい生活について講義
環境問題についてパワーポイントで解説を受けた。地球温暖化の部分では、海水の膨張や水位の上昇の話と1900年〜2010年までのグラフを見ながら、「今起こっている現象が、自分にとってどうなのか、世界にとってどうなのかを両面から考えるべき」であることも学んだ。ダイオキシンなど人工物は天然物と異なり代謝できず生体内に蓄積することや、循環型社会・持続可能な社会として大切なことも学び、まずは自分達ができる身近なことから実践していこうと締めくくられた。食べ残しを捨てない(作りすぎず・買いすぎず)、レジ袋をもらわず買い物してみる・冷房を1℃高く、暖房を1℃低くなど具体的に語りかけてもらえたことで、生徒達には、より身近に感じ取れたことと思える。
施設内見学(東レリサーチセンター内)
とても多くの女性が働いておられることに生徒達は感動していた。廊下の両側にある研究室・実験室は腰の高さ以上は全てガラス張りであり、中でどんな作業をされているかよく見える開かれた空間になっていた。また、廊下には、パネルがたくさん掲示され、自分の部署の研究成果を多の部署の人々に互いに成果発表しているパネルだと説明を受け、研究者の皆さんの熱意や努力も生徒達は感じ取ってくれていたのではないかと思う。
閉講式
生徒一人一人に修了証が渡された。最終日のスケジュールがかなり詰まっていたのと、生徒達の中に新幹線の予約時刻が迫っていた者もあり、修了証授与と全員での記念写真撮影だけで閉講式は終わって、駅への移動を急いだ。生徒達一人一人が感想を述べる時間帯が持てなかったのが残念な気もする。駅での別れ際は、疲れの中にも生徒達はとてもいい笑顔をしていた。