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 学校という日常から一歩外へ出てみるだけで、見慣れたものにも興味を覚え、発見をし、ともすれば目指す道を見出すことさえあるものです。志を持った若者ならなおさらのこと、最先端の知識と技術、またそれに携わる研究者の後ろ姿に触れることで、その情熱に確固たる火を灯すことでしょう。初対面の人間と宿泊するという非日常。初めはそれぞれが虚飾の衣を身につけているわけですが、やがてそれらを一枚ずつ捨てて、心を開いてゆくという貴重な体験に至ります。そして仲間と夢を分かち合った感動を胸に、その実現を誓い帰途につくのです。わずか3〜4日間のプログラムですが、この間の成長には目を見張るものがあります。
 この素晴らしい企画に、私はアドバイザーとして数度参加させていただきました。サイエンスキャンプは、参加者という客を研究者が接待する、という構図では決してありません。むしろ高い目的を持った厳しい合宿に類するものと理解しています。期間中は、参加生徒を自分の教え子と思い、また理系指向の波長が通じる同類の先輩として、彼らと共に驚き、楽しみ、あるときは厳しく接するよう心がけています。夜のミーティング、食事時の会話などなど、教師としての僅かばかりの経験を生かしながら、私自身も有意義な時間を過ごします。
 学校を離れ、自由の海に解き放たれる生徒たち。それゆえに自主自律が強く求められる合宿です。生活面を含めて背筋の伸びた節度ある姿勢で臨ませることは、学習効果のみならず、お話しくださる研究者の意欲も高めるものです。このキャンプが今後の人生に及ぼす影響を考えると、最も良い形で記憶に残るよう、成功への義務感に身の引き締まる思いがします。
 多忙を極める研究業務の手を休め、高校生に科学の楽しみを伝えようとする研究者の姿。教材の準備や実験の計画に、相当の時間と労力をかけていることが、理科教師の目には痛いほど映ります。しかし一般に、生徒はこの舞台裏を知りません。従って「ありがとう」の一言を言わせるのはアドバイザーの指導なのでしょう。時代を担う最先端の研究者と会話ができるチャンスも、その稀有な状況を把握できる生徒はあまりいません。だから彼らにはひと言添える必要があるでしょう。これらはむしろ基本的な人間関係に属する問題ですが、短い期日で高い成果を上げるための、アドバイザーの指導項目だと思っています。
 学校を離れた楽しい合宿。このはしゃいだ特別な空間の道案内役。私はアドバイザーにこのようなイメージを持っています。もちろん研究者の言葉を易しく噛み砕いて解説するなど、具体的なサポートも重要です。しかしその真骨頂は、物語の演出家なのかもしれません。全国から集う志を一つにした若者たちの、出会いから別れまでの物語を、それとはなしに陰ながら支えてあげること。素直に感動する環境を作り出してあげること。これがアドバイザーの一番の役割ではないでしょうか。
 千葉県立柏高等学校教諭 石島秋彦

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